PSPo2小説13
第13話「同盟軍、始動」
グラニグス鉱山での一件から数日が経過していたが、ヤックル達は未だにエマニュエルの行方を掴みかね、モトゥブにあるヤックルの自宅にて今までの情報の整理と事件についての新たな進展がないかを調べていた。
今事件によるもされる失踪者は続出し、その捜索はガーディアンズのような民間企業さらには太陽系警察や同盟軍といったグラールにおける公の機関までもが駆り出されていたものの、一向に犯人像などは掴めていない様子あった。
「ここまで手掛かりがないなんて………」
ヤックルは今までの情報を整理しながらそう呟く。
その横では、アタナシアが最新のニュースや新聞などをくまなくチェックしていた。しかし、これといった情報は載っていないようで浮かばない表情をしている。
「駄目か……。まぁ、新聞に載るようなことだったらとっくに解決しているとは思ってはいたけど………」
次に彼女は自らのガーディアンズ所属IDを使用して、端末からガーディアンズの内部情報伝達用のネットへとアクセスし何か事件に関して進展があったかどうかをチェックした。すると、直接的ではないものの事件の進展に影響する事柄が記述されているページを発見した。それは昨日更新されてものの様であった。
「ガーディアンズが……リトルウィングと合同調査?」
アタナシアが思わず口にしたその言葉に、ヤックルは耳をピクリと震わせて反応した。
「リトルウィング?」
「最近少し名を上げてきた軍事会社だよ。規模は小さいけど、依頼者を選ばないって言うのが人気の理由だとか……たしか、親会社はスカイクラッド社で、そこの秘書さんが責任者をやっていたような………」
ヤックルの疑問に対してアタナシアはそう説明する。ヤックルの方でも聞き覚えはあったらしく、
「今回の事件でも、カーシュ族の村の一件で第一発見者だった人が社員だったっていう会社だよね?思い出した」
とアタナシアに確認を取る形でそう言う。
「そういうこと。小さいとはいえ実際に失踪者を救出した経験のある会社だから、調査に良い影響がありそうだね」
これで事件の解決のための大きな一歩となることを喜ぶ2人であったが、逆に個人単位での捜査に限界を感じていた。それは、今もこうして調査できているのは休職中とはいえアタナシアが所属しているガーディアンズの情報面での後ろ盾があるからであり、彼女達だけではエマニュエルの行方さえ満足に調査出来ていないという現状から来るものであった。
しかしそれでも彼女達が組織から離れて独自に調査すると決めたのは、失踪者全員ではなくエマニュエルという親しい友人個人を救うために自由に動きたいという理由があったためである。その考えはある意味で独善的なものではあるが、それほどに大切な友人を助けたいという気持ちが強いとも解るものである。
「これで、事件全般の出来事はガーディアンズに任せておけるね」
ヤックルの言葉に対して力強く頷くアタナシア。
この言葉や態度から解るとおり、彼女達はガーディアンズという組織を非常に信用している。だからこそ、太陽系全般のことは彼らに任せ自分たちは気兼ねなくエマニュエルの捜索に全力を挙げることが出来ているのだ。
「さてと、後はこれからの調査方針だけど……」
「それなら、私に良い考えがある!」
アタナシアはそう言うと、ヤックルにひそひそと耳打ちをし始めたのであった。
一方同盟軍内部にて日々の仕事を着々とこなしていたヘビーガンは、急遽ライオウの元に呼び出された。彼が大隊長室の前へ向かうと、既に扉の前には同じく呼び出されたのであろうジェガンが立っているのが見えた。
「ジェガン殿にも召集が?」
「そうだ。どうやら、最近問題になっている失踪事件について大隊長から何かあるようだが」
2人が揃ったところで、ジェガンはトビラを3回ノックすると「失礼します!」と言い中へと入っていく。ヘビーガンもそれに続く。
中に入ると、椅子に座っているライオウの隣に秘書官であるカルヴィナが立っており、2人はライオウに向けて敬礼した。
「ご苦労。座ってくれ」
ライオウがそう言うと、ジェガンとヘビーガンはライオウと対面する位置にあるソファに腰を下ろす。それを確認したカルヴィナはそれぞれに何らかの資料と思われるものを配布する。
「現在、ガーディアンズが民間軍事会社リトルウィングとの合同調査に乗り出したことは、諸君らも知っていることと思うが………」
現在、ガーディアンズと同盟軍は3年前のSEED事変での経験から親密な協力関係にあり、一般に公表されていない情報であっても双方に伝達される仕組みとなっている。そのことから、当然ガーディアンズとリトルウィングの合同調査の件も既に同盟軍へと知らされていた。
「そこで……今回、前大戦中からガーディアンズとの協調路線を取っていた我々同盟軍も、政府からの正式な許可が下り次第彼らと協力してインヘルト社に対しての強制調査に乗り出すことが、フルエン・カーツ最高指令と上層部により決定した!」
そのライオウの言葉に、2人の大尉は思わず席を立ち上がりそうになった。
「そ、それは本当なのですか?中佐」
「しかし、民間企業に我々が干渉するというのは問題があるのでは?」
ヘビーガンが驚きを上げたのに続いて、ジェガンが危惧していることを述べる。それに対してライオウは「問題はない」と理由を話した。
「三惑星政府によって制定されたグラール憲法やパルム憲法及び民法には、確かに国家権力による民間への必要以上の干渉を禁じている条文が幾つにも渡って載っている。しかし、これは対象となる民間企業が健全な状態である場合に限られている」
「健全かどうかという裁定は如何するので?」
続いてヘビーガンがそう質問する。
民間企業が健全であるかどうかという裁定自体は、軍のような強大的な権力機構によってではなく太陽系警察若しくはそれに類する組織に委任されているものである。つまり、警察組織などに比べて太陽系内においては最大の戦力を保有する軍自体が、健全性を検査するという名目で無理やり相手側の自由意志を阻害するという事のないようにしてある。これによって、グラールでの民主主義による軍に対するシビリアンコントロールが働いているのだ。
「だからこそのガーディアンズだよ、ヘビーガン大尉。彼らが何らかの証拠を掴んだ場合にのみ、政府議会からの許可は下りる。上はそう考えているようだ」
このライオウの返しに、ヘビーガンとジェガンは成るほどと思った。
グラール中でも、SEED事変での成果によって警察権限が認められている民間企業であるガーディアンズ。彼らは今回の事件において既に何らかの理由によってインヘルト社を警戒しており、秘密裏に調査を進めている。それによってインヘルト社が健全でないことが判明すれば、即座に同盟軍は行動する口実が得られるという事だ。
「少々強引なように思えますが………!」
ヘビーガンは少々強めにそう反論する。
彼とてインヘルト社が怪しいことは最近になって出てきた情報によりほぼ確実であろうと思ってはいたが、軍という機関はSEED事変初期においてその強大な権力ゆえにヒューマン至上主義者に利用された事実がある。そのため、あえてこういった反対意見を述べることにより、権力の乱用に対する警告をしているのだ。
「かつてのエンドラム機関に比べればかなり控えめだ。それに、目的も違うからな……貴官の心配しているようにはならんよ」
ライオウがそう言うと、ヘビーガンは期待していた答えが聞けたようで深く頷いて見せた。
「さて、話を戻すが……。この強制調査では、各大隊から2部隊ずつ出して調査部隊の護衛をすることとなっている。そこで、我が大隊からは第108歩兵部隊と第19独立部隊の双方で任務にあたってもらおうと思っているのだが……異論はないか?」
「は!第108歩兵部隊、任務に就きます」
「同じく、第19独立部隊も任務に就きます!」
2人はそう返すと敬礼する。それに対してライオウは席から立ち上がり敬礼を返した。
「では、作戦開始時刻、展開場所などの詳細は議会の裁決が下り次第各々に伝える。それまで各部隊は基地内において準待機!」
ライオウのこの言葉により、この日は解散となった。各々の大尉は自らの部隊に戻り作戦のための準備を進めていくのであった。
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コメント
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グラール憲法とか私知らない(´・ω・`)
あるとは思いますけどね
にしても、本当に終盤に差し掛かるの?まだ中盤な気が……
投稿: エトワール | 2011年11月 4日 (金) 13時40分
え、ええ!?け、憲法ってなんですか!?・・・とりあえず、おかえり師匠!!
投稿: ミュラ | 2011年11月 5日 (土) 22時09分